RPGの終わり

〜渋澤怜による、ファイナルファイナルファンタジー

2010年7月ーー、
ドラゴンクエストのシナリオスタッフを募集していることを、シブサワはtwitterで知る。

応募にあたり、課された作文のお題は以下の通り。

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「復讐物語のプロット」

以下の6つのキーワードから4つを選び、
その要素が入った「復讐」をテーマにしたショートストーリーを考え、
そのプロット(あらすじ)を提出してください

【キーワード】
『伝説の剣』『お鍋のふた』『思い出し笑い』『超能力』『男装の麗人』『初恋』
<文字数> 1,000文字〜1,600文字

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「なんかお題が面白い!」と理由で、
人生で一度もドラクエをやったことの無い(!)シブサワの冒険が始まった……


……そんなこんなで書いてみたのが「PRGの終わり」です。
はじめにドラクエに送る1600字版を作ったのですが、
これはちゃんとした小説にしておきたい、と思って4000字弱で書いてみたのが以下の文章です。

ドラクエらしさとは一線を画す、
むしろドラクエを皮肉ってるようにも思われかねない(!)、
ブラックでいかにもシブサワっぽい感じになりました。

もう一枚の必須書類の「ドラゴンクエストについて思うこと」という作文は
「私はドラゴンクエストをプレイしたことがありません」で始めた(!)という勇者っぷりだし、
まあ、受かるとは思ってないんだけど、

字数とネタを縛られて書くのは非常に新鮮で楽しかった。

RPGの終わり

 ここは、おはなしの中の世界です。勇者の血筋をひく若者が、王様に依頼され、魔王を倒し、その褒美に王女を得て、新たな王となる世界です。

 ここにいるのは、魔王を倒した昔の勇者。王位と王女を得たものの、冒険を経て化け物じみた怪力を得た彼を人々は皆怖がるし、過去の偉業ひとつでいつまでも、王位にのさばり続けるだろう彼を、早くも家来がけむたがっていたことにも、彼は気づいていました。そこで人の世に嫌気が刺して、早々に王女も王位も捨て、深い深い森の奥に隠れ卑しいマタギの女と、隠居生活を始めました。

 そこで生まれたのは双子でした。幼い頃から、鍋のフタの盾と、肉切りナイフでチャンバラをして遊ぶ双子を見て、父は、脈々と流れる勇者の血筋を感じずにはいられませんでした。

 父は人間の心を憎んでいました。魔王を倒して帰ってくると、手のひらを返したように冷遇した国の人々、おだてられるがまま、何の意志も無く冒険に出てしまった自分の卑しい名声欲や王女への欲望も憎かったし、冒険のために家族と別れるつらさ、敵に対峙した時の恐怖、何より、自分の握った剣が敵を貫く時の嫌な感触・・・何度殺しても、命を奪うということへの、整理のつかない後ろめたさは、拭い去ることはできませんでした。こんな人間の心など無く、モンスターのように動物的に生きる方がよっぽど強い。そう思った父は、いずれ勇者となる運命の双子を訓練し、人間の心を奪っていきました。

 はじめ、何日も洞窟に閉じこめたり、崖っぷちを歩かせることで「恐怖」を、次に互いの身体をムチで叩き合うことで「痛み」を、双子は忘れていきました。醜い罵倒の言葉を、意味の擦り切れるほど繰り返し言い合うことで「自尊心」を、そして、はじめは小さな生き物、ゆくゆくは大きな獣を、何も感じなくなるまで殺すことで、殺しに対する罪悪感を、双子は忘れていきました。双子から奪った人間の心は、モンスター達に与えました。人間の弱点を知りたかったモンスター達は、これが人間の心か、と言って、喜んでもらっていきました。双子は、異様な訓練をくぐり抜ける中で、互いがいないと生きられないけれど、二人で一人分眠り、食べればよい、という、一心同体の不思議な強さを身につけました。そう、それで父は最後に、二人の唯一の弱点、すなわち「二人でいないといけないこと」を取り去ろうとしたのでした。

 老いて病床にあった父は、二枚の鍋のフタと、肉切りナイフではなく二本のそっくりな剣を、双子の前にさしだしました。実は二本のうち片方だけが、昔魔王を倒した伝説の剣だったのです。

「全く互角のお前達は何度やっても引き分けだったね。だとしたら、運に決めてもらうしかない。さあ、小さい頃のように、久しぶりに、チャンバラをしなさい」

 双子は言うとおりにしました。力の完璧に等しい自分の片割れだからこそ、安心しきって全力でぶつかったのに、あっけないほど簡単に、片方の剣が片方の胸を貫きました。負けた方は瀕死の重傷を負い、片方の分まで痛みを受けることになりました。そして片方の分まで眠り、点滴を受け続けることで、もう片方はいつまでも眠らず、食べず、痛みも感じぬ最強の戦士になりました。

 父は片割れの姿を眺めると、満足げに笑い出しました。

「俺を憎め! 俺を憎め! そして倒しに来い! じゃないとお話にならないからな!」

 死に際の断末魔と狂喜の笑いが混じった、化け物じみた叫び声をあげると、片割れから奪った「親子愛」と「兄弟愛」(もしかしたら「自己愛」)をモンスターに与え、父は息絶えました。人間のもっとも奥にある、やわらかい心の部分を得られたモンスター達は、喜び勇んで帰っていきました。

 亡骸から、父の魂が光の束となって魔の山に飛んでいくのを、片割れは見ていました。そう、そういう世界だったのです。勇者は死ぬと魔王になり、息子に殺されるのを待つ、そういう世界だったのです。そうやって、役をまわしていたのです。

 人間を憎んでいた父は自分から人間らしさを奪い、モンスターを強くすることで人間に復讐をした。まもなくどこかの国王から魔王を倒す依頼が来ましたが、そんなもの無くとも彼はそうする気だったのです。自分の心を取り戻し、父に復讐するために。

 

 人間の心を持たぬ勇者にとって、冒険は、ちょっとゲームにならないほどに、わけないものでした。あっという間に魔の山の麓に着くと、ある老人に出会い、このような話を聞きました。

「人間は争いを止めることが出来ない。大昔、ある少数民族を排斥することで、他の民族が団結し、平衡を保っていた時代があった。ところがその少数民族が絶滅すると、各国の殺し合いが止まらなくなってしまった。正直、魔王が現れてホッとしたのじゃ。人間がまた、ひとつの敵に殺意を向けることで、団結することが出来たから・・・」

「そういう意味では、魔王は、人間界にとって必要でもあったのじゃ。かといって時の為政者も、街を焼き人を殺す魔王に何の手も打たないのでは、示しがつかなかった。そこで送り出されたのが、初代の勇者だったのじゃ。とは言っても、魔王を倒すという命を負った以上、魔王を討たずに国に帰っては勇者の立つ瀬が無かった。しかし魔王に対峙した時、彼は、殺せそうにないと怖じ気付き、魔王の取引に屈したのじゃ・・・。思えばそれは、歴史の裏の、甘美な共犯関係でもあった・・・。すなわち、勇者自身が不死の身となる代わりに、自分の子供の死後の魂を、目くらましの魔王の座に据えること。魔王自身は討たれたふりをして隠れ、人間界に潜り込むこと・・・。以後、呪われた勇者の血筋はしらずしらずに親である魔王を殺し、死後は自分が魔王になっている。本物の魔王は今も人間界に隠れていて、期が満ちたら人間を滅ぼそうと狙っているが、それはどれだけ先のことか分からない。魔王の寿命は途方もなく長いし、しかし、その結末まで初代の勇者に見せようとするなんて、魔王の悪趣味のことを企てるよのう・・・」

 なぜそんなことを知っているのか? と片割れが聞くと、自分がその初代勇者だからだ、と老人は答えました。

「そう言えば、お前の父親にも同じことを話した気がするよのう。大層苦しんでおったが、汚れた血は絶えず継がれ、また新たな息子を苦しませるか!」

 老人は子孫を犠牲にした悔恨から狂ったように自分の喉に刃物を突き立てましたが、不死の身は死ぬことができず、汚れた血を漏らすばかりでした。

 魔王が本物の魔王でないにせよ、復讐のため、そして自分の心を取り戻すため、勇者は魔王を殺しに行くしかありませんでした。かつて片割れに瀕死の傷を負わせた、そしてそれを罪とも思わぬ勇者には、老人の発した父親という言葉も、何の響きも持たないのでした。そして何度も繰り返されたように、伝説の剣は、勇者までつながる同じ血を、求めて渇いているのでした。

魔王の胸に伝説の剣を突き立てた瞬間、勇者の心に、全ての人間の心が、まるで死んだ心臓に新たな血潮が通うように、勢い良く流れ込みました。瀕死の双子の記憶、そして父親の想いも剣ごしに伝わってきました。父がモンスターに人間の心を与えたのは、モンスターを強くするためでもあったけれど、双子に宿命づけられた冒険の苦しみを減らしてやろうという、愛でもあったのです。どっちにしろ、人間離れ、化け物じみた心の持ち主でないと、魔王になんて勝てないのだから・・・。

 息子に殺される恐怖と、息子への愛とに挟まれた、父の葛藤を知った勇者は、生まれて初めて涙を流しました。

 一方、双子の片割れも目を覚ましました。今や美しい娘に成長した片割れと会った勇者は、初恋ーーあるいは親族愛、あるいは自己愛、最初で最後のそれ全てを彼女に注ぎ込みました。

 真実を知った双子は、しかし、本物の魔王を捜すほどお人好しになる気は無く、自分達が子供に殺されるのも、子供にそんな思いをさせるのも嫌でした。愛に目覚めた双子は人類のことなどどうでもよかったのです。

 自分達が魔王になることは避けられないとしても、自分達が子を作らなければ、この血筋を止められるのでは? と気づいた二人は、二人で魔王となり、勇者の来ない世で二人で永遠に生きることを誓いました。

「父さんは一人だから、怖かった。母さんが欲しくて、耐えられなかっただろうね。でも僕らは二人だから、怖くないよ」

 二人で一人の二人は何度番っても子は産まれませんでした。

2010.7.17

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